不動産投資は『赤字リスク』がつきものです。


例えば、減価償却による赤字の場合、帳簿上は赤字になっていても、手元に実際に残るお金が黒字であれば問題はありません。
そこで今回は、不動産投資で赤字になる原因と、不動産運営を黒字にするためのキャッシュフローの重要性について解説します。
目次
不動産投資における「赤字」が意味するものとは?

不動産投資を始める理由は様々ですが、節税目的で不動産投資を始めるという方も多いのではないでしょうか?
たしかに、不動産投資において発生した赤字は、会社員の給与所得と合算して相殺することができます。

しかし、節税効果を狙って不動産投資をすることは、果たして健全な不動産投資と言えるのでしょうか?
「不動産投資は節税になるから赤字でも大丈夫!」は危険
節税目的で不動産投資をする場合、不動産投資に節税効果があるのは赤字のときだけということを忘れてはいけません。
不動産投資で節税をする際には、『減価償却』という考え方がとても重要になってきます。

減価償却を利用した節税の場合、節税効果を得られるのは減価償却期間だけです。
たしかに、築古物件などは減価償却期間が短いために減価償却費が大きくなり、会計上の赤字を作ることは簡単です。
しかし、償却期間が過ぎて、会計上黒字であれば、所得税や住民税は増えます。
さらに、ローンを利用していた場合は黒字倒産も発生しやすくなります。
ローンの元金の返済分は経費に計上できないので、「会計上は黒字なのにキャッシュフローは赤字」という状態になる可能性があるのです。


ですから、不動産投資は「収益を得ること」を第一に考え、赤字を出した場合は原因を究明し、きちんと投資判断を行うことが大切です。
そこで、次章からは不動産投資で赤字になる主な原因とその注意点について解説します。
不動産投資で赤字になる原因①【ローン返済】


不動産投資では、家賃収入内にローン返済額が収まるようにするのが基本ですが、少額の赤字であれば問題ない場合もあります。
そこで、ローン返済による赤字で問題ない場合と問題がある場合を考えます。
不動産投資ローンの赤字は手にする資産価値とのバランスを考える


- 毎月のローン返済額:10万円
- 毎月の諸経費:1万円
- 毎月の家賃収入:10万円
- 不動産の資産価値:2,000万円
- ローン返済期間:20年
上記の不動産の場合、毎月1万円の赤字であり、他の所得から1万円を補う必要があります。
果たして、この場合は、問題がある状態と言えるでしょうか?


結論から言うと、この不動産投資における赤字は問題ないです。
なぜなら、毎月1万円の支出で20年後に2,000万円の物件が手に入るからです。


もし、不動産投資ではなく、貯金をして20年後に2,000万円を用意するとしましょう。
この場合、毎月8万円も貯金する必要がありますが、不動産投資なら毎月1万円の支出で達成できます。
ただし、毎月の赤字が多額になると返済が負担になり、経済的に困窮してしまいます。
そのため、「どの程度の赤字なら結果的に黒字にもっていけるのか?」をしっかりと考える必要があります
さらに、不動産投資では、設備の不具合で急な修繕費用が発生したり、先ほどもお話しした通り、減価償却期間が終わると税金が急激に増えたりします。


不動産投資で赤字になる原因②【空室】


空室が多いと家賃収入は減少するので、赤字になってしまいます。
では、空室による赤字は「問題ありor問題なし」のどちらなのでしょうか?
空室による赤字は不動産投資が不健全な状態ということ
結論から言うと、空室による赤字は大問題です。
家賃収入が少ないということは、「投資している不動産の収益性が低い」「物件の管理状況が悪い」ことを意味します。


また、空室期間に出た損失は、家賃収入の減少だけでなく後から取り戻せない利益を含みます。
先ほどの例と同じ条件のマンションに空室ができたとしましょう。
この場合、想定していた家賃収入が入らない状態でローン返済をしなければなりません。
そのため、毎月1万円の赤字では収まらず、10万円近い赤字になることも考えられます。






空室のリスクを減らすには、賃貸需要のある物件を選ぶことが大切です。
立地条件が良いことはもちろん、生活に必要な設備に不具合がないかをしっかりとチェックしましょう。
また、間取りや設備が入居者のニーズに合わないなら、リフォームを行いアップデートすることも大切です。


不動産投資で赤字になる原因③【減価償却】


不動産投資において、減価償却による赤字とは、会計上は赤字でもキャッシュフローは黒字という状態のことです。




さらに、不動産投資における赤字は会社員の給与と損益通算できるので、会計上の給与所得が減り、所得税や住民税の節税ができます。
実際に数字を当てはめて考えてみましょう。


- 建物価格:2,000万円
- 年間家賃収入:200万円
- 減価償却期間:4年
- 年間返済額:約160万円(15年)
上記のような条件の場合、4年で1,000万円を減価償却するので、減価償却費は年間500万円として経費計上できます。
ですから、会計上の収支は次のようになります。


しかし、実際には【家賃収入200万円-返済額160万円=40万円】と黒字になります。
さらに、この人の給与所得は500万円ですから、総所得金額は赤字の275万円を差し引いて225万円となります。
所得税と住民税は総所得金額に対して課税されるので、赤字の275万円分節税効果があると言えますね。




減価償却を活用した節税の注意点
減価償却を活用して節税する場合、減価償却期間が終わると減価償却費が計上できなくなるという点に注意しましょう。


減価償却費500万円は、償却期間である4年を過ぎると計上できなくなります。
その際の会計上の収入は次のようになります。
一方、実際のキャッシュフローは、【家賃収入200万円-返済額160万円=40万円】となります。
この場合、会計上は175万円の収入増として扱われますが、実際の収入は40万円増加のままです。
つまり、減価償却期間が終わると、225万円のとみなされていた総所得金額は、給与所得と合わせて一気に675万円に跳ね上がります。


そのため、減価償却期間が終わった後の収支もきちんと考えておかないと、「せっかく利益が出ても税金を納付できない」といった深刻な事態になりかねません。
そうならないためにも、ご自身の経済状況をきちんと把握し、赤字が出てもそれが容認できる赤字なのか見極める必要があるのです。
不動産投資では赤字そのものではなくキャッシュフローを見るべし


不動産投資において、赤字になる全ての原因に問題があるわけではありません。
大切なのは、「キャッシュフローが最終的に黒字になるか?」「きちんと経営を続けていけるか?」ということです。
最後に、赤字戦略をとる上で注意すべきポイントについて解説します。


- キャッシュフローが意味するのは返済能力のこと
- 減価償却費は定率法から定額法へ
キャッシュフローが意味するのは返済能力のこと




これが、不動産投資の規模を拡大させる上で不利に働く可能性も考えられるのです。
というのも、現在所有している投資用不動産が赤字の場合、金融機関から借入をする際の審査がマイナスに働き、借り入れしづらくなる恐れがあります。
ただ、金融機関も審査の際に赤字の内容を加味してくれます。


減価償却費は定率法から定額法へ
減価償却費の計算方法には「定率法」と「定額法」の2つあり、計算方法はそれぞれ次の通りです。
- 定額法:取得価格✕耐用年数に応じて定められた定額法の償却率
- 定率法:前期末の帳簿価格✕耐用年数に応じて定められた定率法の償却率


定額法と定率法が実際にどのように違うのか、実際の計算例が国税庁のホームページに紹介されているのでご紹介します。
定額法 | 定率法 | |
---|---|---|
耐用年数 | 10年 | 10年 |
償却率 | 0.100 | 0.200 |
改定償却率 | - | 0.250 |
保証率 | - | 0.06552 |
償却保証額 | - | 65,520円(=1,000,000✕0.200) |
1年目の償却費 | 100,000円(1,000,000✕0.100) | 200,000円(1,000,000✕0.200) |
2年目~6年目の償却費 | 100,000円(1,000,000✕0.100) | (1,000,000-前年までの償却費の合計)✕0.200 |
7年目の償却費 | 100,000円(1,000,000✕0.100) | 65,536円(改定取得価額 262,144円✕0.250) |
8・9年目の取得費 | 100,000円(1,000,000✕0.100) | 65,536円(改定取得価額✕0.250) |
10年目の償却費 | 99,999円期首帳簿価額-1円<1,000,000✕0.100 | 65,535円(期首帳簿価額-1円<改定取得価額✕0.250) |
ご覧のとおり、取得価額は変わらないので、定額法での減価償却費は毎年一定となります。
これに対して、定率法は初年度に多く減価償却費を計上できるので節税効果が大きいです。




そのため、キャッシュフローを考える際は、今まで以上に減価償却費による節税効果がどのくらいなのか精査する必要があります。
まとめ
繰り返しになりますが、不動産投資を節税目的で始めるのはあまりおすすめできません。


そのため、「節税できるから赤字でも良い」と安易に考えるのは正しい考え方ではありません。
キャッシュフローに余裕のある状態を心掛け、安定した不動産運営を目指しましょう。